異世界転生————現在、その言葉はもはや『無双』『チート』『最強』……そういった物の同義語と成った。転生と勝利はイコールで繋がれ、主人公は無条件に正義であり続ける。主人公に刃向かう者は全て悪役であり、主人公の間違いはどこにも無い。いいや、あったとしても周囲がそれを糾弾することは無い。主人公は常に何者よりも強く、主人公は何物をも超えて頂点に立ち続ける。決して悪くは無い。そこに生まれる爽快感、自分を主人公に投影して得られる肯定感、『異世界転生モノ』には『異世界転生モノ』からでしか得られない満足が確かに存在している。だが。だがしかし、『物語』という世界自体に愛される者こそが主人公————なあ諸君、その構図に『飽き』は覚えていないか?始まる前から勝つことが決まった戦い。巻き込まれる前から円満が定まったトラブル。誰も喪わず、何も失わず、誰から見ても悪役にしか映らない敵が流れ作業のように駆逐されていく……そんな先の読める話に、飽きてはいないか?違うと言うならば良い。妄言として切り捨てるのも自由だ。しかしもし、もしもここまでの話に少しでも心を刺すものがあったなら、この小説に目を通して見てほしい。そこには僅かながらでも君の飢餓を満たせるものがあるはずだ。『物語』に愛されない主人公————先の見えない興奮を、どうぞお楽しみ下さい!