命も記憶も名前も身体すらも無くして異世界転生した義腕の男が格闘技を武器にして呪術に満ちた異世界を戦い、何もかもを変えていく。世界を滅ぼすかもしれない(あるいは救うかもしれない)魔女の心を。世界の運命を。滅びの未来を。そして男は恩人である少女との再会の約束の日を待ち続ける…というのがおおざっぱに言えるあらすじ。また、フリーシェアードワールドであるところの「ゆらぎの神話」がこの作品の根幹を成しているのは事実だが、アリュージョンすなわち引喩元はこれに限った話ではなく、実際にはアニメやゲーム、映画や神話や小説、ネットミームetcからも莫大量の引喩を行っている。とはいえそれらの引喩の元ネタが分からなくても全く問題はない。単純にこの作品はそんな要素の一部分を抜きにしてもはちゃめちゃ面白い娯楽小説だからだ。寝食を忘れて読みふけるくらいに。話の盛り上げ方がとにかくうまい、緩急のつけ方が堅牢、強烈なシナリオのヒキ、貼られた伏線の丁寧な回収、執拗で多層的かつ神話的な再話構造、などなど長所をあげるとキリがなくなってくるが、好き嫌いがはっきり分かれるので万民向けとは言えないまでも面白いことだけは保証する。欠点をあげるとするとまだ未完結で既にボリュームがかなりある、というあたりになるだろうか。ともあれ、興味を持った人はぜひ3章の「パレルノ山六千人殺し」までは読んでみて欲しい。